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信仰と神社の系統

 日本では「八百万の神々」といわれるほど、数多くの神様が各地に

お祀りされている。その御神徳や性格も一神一神異なり、ご利益や

専門領域も違う。そのため神社信仰は祭神を同じくする系統により、

流れを大別することができる。

 はじめに神様が降りられてお祀りした神社を「本源の社」と言い、

そこを中心に各地に御神霊が分けられ、発展したケースが多い。

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稲荷信仰

 人々から親しみを込めて呼ばれる「お稲荷さん」は、全神社の3分の1にあたる約3万2,000社の分社を持つ最大の信仰である。

 京都の伏見稲荷大社が総本社で、主祭神を宇迦之御魂神という。

 「稲荷」の語源は「稲成」で、もとは農業(稲作)の神様だったが、やがてその神徳も拡大し広く庶民に受け入れられていった。伏見稲荷大社の創建は、元は渡来人の秦氏に由来する。

 ちなみに本社の象徴とされる狐はあくまでも神の眷属〔けんぞく〕(お使い)で、神様そのものではない。

八幡信仰

 八幡は分社が約2万5,000社と稲荷に次いで多い神社であり、総本社は大分の宇佐神宮である。

 応神天皇を主神に、比売大神・神功皇后をお祀りしている。数多い分社の中でも石清水八幡宮、鶴岡八幡宮、藤崎八幡宮などが有名である。

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諏訪信仰

 信越地方を中心とする諏訪信仰の総本社は、長野の諏訪大社である。

 昔から風の神様として信仰され、上社(前宮, 本宮)・下社(春宮, 秋宮)ともに建御名方神と妃である八坂刀売神が祀られている。

 農業・漁業などのご利益があり、分社は約1万社以上とされる。

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浅間信仰

 縄文時代にまで遡る古い信仰であり、富士山の涌き水と火の霊威を崇める。

 総本宮は木花開耶姫命を主祭神とする富士山本宮浅間大社で、冨士御室浅間神社など富士山を遥拝できる地を中心に約1,300の分社がある。

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山岳信仰

 アニミズムからスタートした日本人の信仰の対象は、草木や河川、岩石など身近な自然から、次第に悠然とたたずむ山へと向かう。

 入山に伴う厳しさは神から与えられた試練と捉え、修行という崇拝のスタイルを取り

入れていく。

 三大霊山の富士山・立山・白山のほか、御嶽山・石鎚山・大峰山など、山岳信仰と修験で知られた山々は今でも各地に多数ある。

天神信仰

 京都の北野天満宮と福岡の太宰府天満宮が総本社で、祭神は学問の神様=菅原道真公である。

 分社は約1万5,000社。本社のシンボルである牛は、道真公のご遺体を運ぶ牛車のウシが、なぜか突然座り込んで動かなくなったことから、その地に太宰府天満宮が建立されたことに由来する。

伊勢信仰

 総本社は神宮(伊勢皇大神宮→正式名称は神宮)。神社の最高峰で日本国民の総氏神でもある。いつの時代も、あらゆる社格を超越した別格社とされてきた。

 天照大神をお祀りし、古来朝廷から特別な尊敬が寄せられたほか、庶民の間でも「お伊勢さま」として変わらぬ人気を保ってきた。

 伊勢の分霊を勧請したと縁起を持つ神社はかなりあるが、実は伊勢神宮の分社は1社もない。

 全国には天照大神・豊受大神を祀った“神明”系の神社は約1万8,000社もあるが、それらは厳密にいえば、伊勢神宮の遥拝所として建てられたか、「飛神明(伊勢の神霊が移り飛んできたという思想)」の考え方によって建てられたかのどちらかである。

鹿島・香取・春日信仰

 茨城県の鹿島神宮、千葉県の香取神宮は関東地域最古の大社で、前者は武甕槌神、後者は経津主神と共に武神をお祀りしている。

 奈良の春日大社は鹿島の神を氏神として崇めた藤原不比等が分霊を勧請して創建した神社で、1,300余の分社を持つ。

宗像・厳島信仰

 宗像の神は三女神。総本社は福岡の宗像大社で、辺津宮に市杵島姫神、中津宮に湍津姫神、沖津宮に田心姫神が祀られている。

 分社は6,000余社あり、広島の厳島神社はこの神を平清盛が勧請して建ったものである。

山王信仰

 日吉(日枝)信仰ともいい、日枝は比叡山のこと。 比叡山麓に鎮座する日吉大社が総本社で、東宮に大山咋神、西宮に父神の大己貴命が祀られている。約3,800の分社があるとされる。

熊野信仰

 和歌山の熊野地方は昔から祖霊の住む場所として畏敬され、阿弥陀仏のおわす浄土と信じられた。

 そこに鎮座するのが「熊野三山」と呼ばれる熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社の三社で、これが総本社である。

 それぞれ家都御子大神・熊野速玉大神・熊野夫須美命が祀られている。分社は約3,000社。
住吉信仰

 住吉神社は全国のいずこにおいても海岸か河口付近に鎮座しており、祭神は表筒男命・中筒男命・底筒男命で住吉三神と呼ばれる。水に関係の深い神で、おもに漁師や船乗りなどに崇拝されている。総本山は大阪の住吉大社、分社は2,100余。

牛頭天王信仰

 京都の祇園祭りで有名な八坂神社が総本社である。牛頭天王は元来インドの神様だったが、日本に入ってからは素戔鳴命と同一視されるようになった。この信仰で有名な愛知の津島神社と合わせ、約5,600の分社がある。

戎(恵比寿)信仰

 兵庫の西宮神社が総本社で、祭神は蛭子大神。商売繁盛・福の神として全国的に人気があり、特に大阪の今宮戎神社は大阪商人には絶大な人気を誇る。

出雲信仰

 縁結びで有名な島根県の出雲大社が総本社。格式は伊勢神宮に准ずるものの、創建はさらに古いとされる。

 祭神の大国主命は、国土経営・農業・医薬の神としても霊験あらたかで、分社は1,300余。

氷川信仰

 埼玉と東京の荒川流域に集中的に見られる氷川信仰の総本社が、さいたま市に鎮座する氷川神社である。

 主祭神は素戔鳴命で、武蔵国造の武蔵氏が出雲国造と同族関係だったために、出雲の祖神を祀ったものだといわれる。

愛宕・秋葉信仰

 愛宕信仰の総本社は京都の愛宕神社で、伊弉冉尊・迦具槌之神など、記紀神話において火の神誕生に登場する神々をお祀りしている。

 秋葉信仰の総本社は静岡県の秋葉山本宮秋葉神社で防火・鎮火の神様である火之迦具土大神を祭神とする。

金毘羅信仰

 総本社は香川県琴平町の金刀比羅宮で、祭神は大物主神である。

 「コンピラ」はもともとサンスクリット語のクンピーラが訛ったもので「竜王」の意味がある。そのインドの竜王信仰が日本に入り、土着神と習合したといわれる。

 仏教の日本渡来と共に、河の神から海の神になり航海神となった。分社は約700社ある。

写真(右上のイメージPhotoを除く)は左段上より…富士山頂浅間大社、宇佐神宮、伊勢神宮、中段上より…諏訪大社、日吉大社、住吉大社、右段上より…富士山本宮浅間大社、出雲大社、金刀比羅宮
参考文献▶『宗教年鑑』文化庁編/『神道とは何か』伊藤聡(中公新書)/『古事記完全講義』竹田恒泰(学研) /Wikipedia/全国の神社で入手したパンフレット等/他
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